ディープテック・スタートアップにおけるデット調達のTIPS 基礎編

2025/03/30

Venture Debt Library

 先日、FundsStartupsがGPを務める『Funds Venture Debt Fund 』より、ディープテック・スタートアップであるエイターリンク社にベンチャーデットでの出資を実行いたしました。


 当ファンドは、金融機関共同研究型というコンセプトを背景に、既存金融の仕組みでは資金供給が難しい分野や企業に対して積極的に資金供給することをテーマとしています。そして注力分野として、ディープテック・スタートアップへの資金供給を進めています。


 今回は、ディープテック・スタートアップへのデットでの資金供給難易度がなぜ高いのかを紐解きつつ、これまでFunds Startupsが提供・観測してきたデット調達についてTIPSとともにご紹介させていただきます!

ディープテック・スタートアップにとって、今後のデット調達のご参考になれば幸いです!

ーリリース抜粋ー
■投資実行の背景当ファンドは、金融機関共同研究型というコンセプトを背景に、既存金融の仕組みでは資金供給が難しい分野や企業に対しても正面から向き合い、資金供給を推進することを目標としております。エイターリンク社のようなディープテック・スタートアップは、継続的な研究開発に伴うR&D費用、技術の商用化に向けたプロセス、プロダクトの量産および販売に向けたグロース費用等多額の資金調達が必要になります。一方、日本においては、ディープテック・スタートアップの民間による資金供給は未だ難度が高く、対応できる金融機関や投資家は限られています。我々の存在意義は、このような既存の枠組みでは資金供給が難しい分野に対し、積極的にリスクマネーを提供していくことであり、今回はそのような意義を念頭にエイターリンク社への投資実行を決定いたしました。

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デットプレイヤーは何を見て融資するのか?

 大前提として、スタートアップはその構造上デット調達が難しいと言われていますが、その中でもディープテック・スタートアップはさらにハードルが高いことが知られています。その理由を解明するためには、まずデットプレイヤーの考え方を知ることが重要です。

デットプレイヤーが重要視する事は?

 デットプレイヤーが何よりも重視するのは、キャッシュ(キャッシュフロー)です。デットはエクイティと違って有限かつ返済義務があり、突き詰めると「どのようなロジックでお金が返ってくるのか?」という目線から分析を行います。したがって、貸した資金が何に使われ、どのようなキャッシュを生み、結果としていつ返済が可能か?といった、お金の流れを把握することを最重視しています。

なお、お金に色はないと言われますが、性質としては以下3つに分けられます。
1. 営業キャッシュフロー:本業の営業活動から得られるキャッシュフロー
2. 投資キャッシュフロー: 設備投資やM&Aなど、将来的な成長に向けた投資活動に関するキャッシュフロー
3. 財務キャッシュフロー: エクイティによる資金調達、借入金の調達・返済などによるキャッシュフロー

返済原資になるのはどのキャッシュフローか?というのをCase別に見ていきましょう。

Case1:営業キャッシュフローが返済原資の場合

 スタートアップに限らず、一般的な融資においては、営業キャッシュフローが返済原資となります。既に本業から安定的なキャッシュが創出できている場合、返済原資が確保できる会社であると判断できます。
 一方、スタートアップのように投資が先行し赤字が継続する場合、一般的に銀行から融資を受けるハードルは高くなります。但しこのようなケースに置いても、昨今はベンチャーデットで調達している事例は多く、その場合、基本的には「将来的に(≒融資期間以内に)営業キャッシュフローが黒字化し、返済見込みがあるのか?」という点が判断のポイントになります。(下図参照)言い換えれば、黒字化までの繋ぎとも言えるでしょう。

Case2:財務キャッシュフローが返済原資の場合

 融資期間によっては、営業キャッシュフローの黒字化と返済のタイミングが合わない場合もあります。例えば、次のエクイティラウンドまでの繋ぎ資金として短期でデットを活用する事例等がこれに該当します(下図参照)。この場合は、一般的な融資の返済原資と異なり、財務キャッシュフロー(資金調達)が返済原資となります。
 このケースにおいてレンダーは「期限までに資金調達ができるのか」という点を重点的に評価します。具体的には、企業が今後も成長する事で企業価値が向上し、将来的に営業キャッシュフローが生まれる見込みが高いと判断できれば、継続的に他の投資家、デットプレイヤー等が資金供給を行うはずであるという前提でデットを提供しています。(銀行の場合は、自行で借り換えを行う事も一般的です。)

Case3:投資キャッシュフローが返済原資の場合

 厳密に言えば、投資キャッシュフロー自体が返済原資になるのではなく、投資キャッシュフローを資金使途とした融資の結果として、生み出される営業キャッシュフローや財務キャッシュフローを返済原資とする場合が、このケースにあたります。
 具体的には、M&Aや設備投資等が挙げられます。昨今はスタートアップがスタートアップを買収するシーンや、スタートアップが老舗企業を買収する(ロールアップ等)シーンが散見されますが、このような機会において、被買収会社が生み出す将来キャッシュフローを返済原資にする場合や、買収に伴いグループ連結で企業価値が成長し、それゆえに次回調達可能性が高まることを期待し、財務キャッシュフローを返済原資にして融資するケースもあります。
 なお、これらの投資キャッシュフローを見合いにする場合には、一般的に投資アイテムから得られる収益が優先的にレンダーに回るような財務制限条項(コベナンツ)が付されることが考えられます。


以上の点をまとめると、デットプレイヤーが何よりも重視するのは「キャッシュ(キャッシュフロー)であり、どのようなロジックでお金が返ってくるのか?」という判断軸を持っています。

 そのため、融資先企業が今後事業成長することで営業キャッシュフローが生まれ、融資期間満了時に貸したお金が返済可能な状況であるのか。または、今後の資金調達の蓋然性に依拠して返済可能であるかを判断し、それぞれの期間に必要な資金を提供しています。
 また、デットプレイヤーの中では資金使途を硬度で表すこともあり、この資金使途は硬いか?(=実現可能性が高いか)柔らかいか?(=実現可能性が低いか)といった会話が行われます。一義的に営業キャッシュフローは硬く、財務キャッシュフローは柔らかいため、一般的な融資は原則営業キャッシュフローが生まれるロジックが必要になりますが、我々が取り組んでいるようなベンチャーデットは、もう一歩深いリスクリターンに対応し、柔らかいと言われる財務キャッシュフローを返済原資にしたデット供給も行っています。

ディープテックに対する資金供給はなぜ難しい?

 ここでディープテックスタートアップの特徴を考えてみたいと思います。
 一般的にディープテックは、研究開発フェーズを含め開発期間が長く、技術リスクや開発リスクを乗り越え、ようやく量産化まで至ることができます。また、量産化に成功しても、実際に市場に受け入れられ、顧客が購入してくれるかというマーケットリスクも越えなければなりません(※一般的にディープテックはマーケットリスクが低いことを期待されますが、実態として販売リスクが存在する場合も多く、その点を前提としています。)
 特に研究開発フェーズにおいてはスケジュールをコントロールすることは実質的に不可能であり、結果、想定以上に時間がかかり、返済スケジュールとキャッシュインのタイミングが合わない可能性も高くなります。かつ継続的に高額なR&D投資を必要とするため、どこかでタイミングでお金が尽きてしまわないか?・・・といった固有のリスクを含むことになります。

 要するに、一般的なIT企業に比べ営業キャッシュ・フローが生み出されるまでに乗り越えなければならないリスクが多く、かつその期間もアンコントローラブルであることから、融資期間までに営業キャッシュ・フローが生まれるのか?それまで存続可能であるか?という点が読みづらいという事になります。
 
同様に、ディープテックの資金調達については、一定の研究進捗に合わせて企業価値が増減することからも今後の調達蓋然性を図ることが難く、結果的に財務キャッシュフローを返済原資としてデットを提供するハードルも高くなります。

では、どのような場合ディープテック・スタートアップはデット調達が考えられるのか?

 キャッシュ・フローを生み出すまでのハードルが高く、道のりが長い事は分かったものの、では実際にどのような場合にデット調達が可能なのか、Funds Startupsでの提供・観測してきた事例についてTIPSとともにご紹介させていただきます。

ケース1:既にプロダクトの販売が開始している場合

 このフェーズまで来ると、エクイティよりデットの相性のほうが良くなります。当該プロダクトの販売にかかる営業人員の増加や広告宣伝費に対して投下する資金であれば、どの程度営業キャッシュ・フローが生まれるかが予測しやすいため、スタートアップとしても、より資本コストの安いデットでの調達を率先して行うケースが多くなります。なお、ディープテックの場合は一般的に研究開発段階で相当に希釈化しているため、デットが適合するタイミングになれば可能な限りデットでの調達を考えるべきとも言えます。
 この段階でポイントとなるのは、一般的な企業とも共通していますが、プロダクトがPMFしているか、ユニットエコノミクスが成立しているかという点です。
 なお、ディープテックにおいては、商品開発こそが最も大きなリスクであり、一般的なプロダクトと比較して、マーケットリスクを取らない(=即ち、作ることさえできれば売れる確実性が高い)構造が期待されます。したがって、この段階まで辿り着いたディープテックについては、寧ろデットプレイヤーからすれば取り組みやすいとも言えるでしょう。
 また、既に販売を開始しているプロダクトがある一方、他方ではコア技術を活用した新たな市場開発・製品化を目指しR&Dを続けるケースもあります。この場合、前者にかかる運転資金や費用性資金はデットで調達し、後者はエクイティで調達することで資本コストの適正化を図ることができます。

ケース2:研究開発が完了しており、商用化・量産化までの道筋が立っている場合

 まだ販売に向けた量産化が行われていない場合でも、デット調達をしている事例はあります。この場合、プロトタイプの開発が成功している事、LOI・オフテイク契約*の活用により潜在需要が高いことを示すことで、資金提供を受けやすくなります。また、NEDOのDTSUをはじめとした、政府や自治体の補助金・助成金を受けられている場合や、SBIR等の政府調達を受注している場合は、これらのパイプラインを開示することも効果的です。
 なお、量産にあたり大型の設備投資が必要な場合、初期投資はエクイティで調達し製造能力を証明した上で、製造体制の規模拡大など再現性のある投資はデットの活用など使い分けも重要になります。
 また、ケース4で後述しますが、量産体制整備においては、中小機構のディープテックベンチャーへの民間融資に対する債務保証制度を活用することもデット調達をしやすくする選択肢の一つです。
*顧客による購入契約: 初期に締結する Letter of intentと法的拘束力があるオフテイク契約が存在

ケース3:マイルストーン型のキャッシュインが見込める場合

 開発の進捗に応じて顧客から都度マイルストーン収入を得られるような事例となります。宇宙関連事業や創薬事業はこのケースに該当する場合が多く、まだ開発フェーズではあるものの、当該キャッシュインが返済原資として見込める場合は、融資を受けられる場合があります

 この場合、既に過去同様の開発プロジェクトを成功させた実績や、代替とするパイプラインの有無、万が一予定通り開発が進捗しない場合でも資金繰り懸念が発生しない事、エクイティプレイヤーから支援を受けられる可能性などを開示することが重要になります。
事例としては、進捗に応じた期限前弁済(返済期日よりも前の返済方法)や、コベナンツといわれる財務制限条項を課すことで、返済の蓋然性を高めるなどの手段も見受けられます。
 創薬系バイオベンチャーにおいては、国内外の大手製薬会社に対してアライアンス等を締結(ライセンスアウト等)することで、契約時の一時金(アップフロント)や、開発が一定程度進捗した段階でマイルストーン収入、レベニューシェアを得ることができるため、当該資金を返済原資としたデットを提供する事も考えられます。

ケース4:補助金や助成金、保証制度の活用が見込める場合

 最近は、NEDOのDTSUやSBIRへの採択などを通じて、一定の補助金や助成金を交えて効果的に調達するケースが増えてきました。他方で、補助金等に採択されたものの、原則として多くの補助金は定められた明細における支出分のx%が、数カ月後~1年後に支払われる内容(つまり後払い)となっており、その構造からも手前で投資するための資金繰りに窮するケースが散見されます。
 この場合、補助金や助成金による回収が見えているため、当該先行投資に必要な資金に対するデットは活用しやすいと言えます。
また、これらの補助金の採択は、技術力や信用力のアピールになるケースもあります。


 また、保証制度として活用できるものとして、中小機構によるディープテックベンチャーへの民間融資に対する債務保証制度があります。これは、ディープテックベンチャーが量産体制整備を行うための融資に対し、中小機構が50%の債務保証を行う制度です。当該保証制度の活用により、デットプレイヤーはリスクを低減できるため、デットを提供しやすくなります。ただし、本投稿時点では、債務保証制度を活用する場合、原則5億円以上、3年以上の融資期間といった一定の利用条件があります。

なお、当該制度は指定金融機関のみが活用できる制度となりますが、Funds Startupsも独立系VD初の指定金融機関等に認定されています。

Funds Startupsが独立系VD初!経産省の「ディープテックベンチャーへの民間融資に対する債務保証制度」の指定金融機関等に

ケース5:IPOに向けた手元資金確保の場合

 ディープテック・スタートアップの場合、まだ売上がない、または極めて少ない状態で上場するケースの場合、事業継続性(going concern)の観点から上場前に一定のキャッシュを確保することが求められます。一方、既に長期に渡るR&D等で希薄化が進んでいるため、上場前に一定規模の資金調達を行いキャッシュポジションを強化する過程において、一部ベンチャーデットを活用して資金調達を行う事で、希薄化を抑えることができます。
 
この場合、上場の蓋然性や、万が一上場が想定より遅れた場合においても資金繰り懸念が発生しない事、場合によっては追加のプライベートラウンドの実施の可能性やエクイティプレイヤーの支援が受けられるかなどがアピールポイントとなります。事例によっては、無事に上場が達成された場合そのタイミングで一部の早期返済を行う場合もあるようです。

まとめ

 このように、安定的な営業キャッシュフロー創出ができていない状況であり、かつディープテック・スタートアップであったとしても、デットを調達できる事例が実は沢山あるのです。

 但しその中においても、専ら研究開発フェーズ(特に基礎研究~探索的研究段階)である場合や、初期的なPOCなどにはデットプレイヤーから見た場合に不確実性が高いことから、活用のハードルは高くなります。逆を言えば、スタートアップから見ても、不確実性が高い中でデットを活用するリスクは相応に高いものと言えます。返済が滞れば会社全体がデフォルトに陥る可能性があり、深刻な事態を招くこともあり得ます。

 一方、開発フェーズにおいても、マイルストーン等によるキャッシュインが見込める場合、開発完了後~販売前フェーズにおいても、潜在需要が高いことが示せる場合や再現性のある設備投資など、将来的に営業キャッシュフローの創出の蓋然性が高い場合には、デットの提供を受けられるケースもあります。補助金や助成金、保証制度の積極的な活用もオススメです
 また、融資期間によっては財務キャッシュフローを返済原資にする場合もあるため、IPOの蓋然性や、株主の構成や支援体制なども重要になります。

 なお、大前提としてデットを調達する際には、事業計画(PL、BS、CF)や資金繰り表の作成はマストとなります。「どのようなロジックでお金が返ってくるのか?」を会話するためには、事業計画や資金繰り表に沿って数字でコミュニケーションをとる事が重要になります。

 また、今回は基礎編のため期限前償還・財務コベナンツなどには深く触れませんでしたが、デットの場合は調整できる変数が多いことからも、条件設計が重要なポイントであり、双方にとってWin-Winなディールになるにはどのような条件にすべきか、といった視点を持つとレンダーとより議論しやすくなるでしょう。

最後に・・・

 まだまだディープテック・スタートアップへのデット提供の歴史は浅く、上記に述べた事例も含め、今後様々なシーンでのデット提供を模索していきたいと考えています。他方で、日本の歴史を遡れば、今や企業価値が兆円を超えているような製造系大企業は、元はディープテック・スタートアップともいえます。当時はVC産業が発達しておらず、エクイティではなく、産業金融機能としてデットによる資金供給が主な役割を果たしてきました。また、日本は世界各国と比較して間接金融が厚いことからも、デットによる産業発展への貢献余地はまだまだあると考えています。

 その一旦を担うべく、目下では、ディープテック・スタートアップに対して、当社がリードデットプロバイダーのような形で参画し、各社の状況に応じた調達条件を設計。それを必要に応じて同じラウンドで参加する金融機関やその他レンダー等にも共有いただくことで、資金供給を促す取り組みにも力を入れていく方針です。特に当ファンドはLP金融機関は、スタートアップに投融資したい金融機関のみで構成されているため、このような協調投融資が可能なフォーメーションとなっています。

 さて、このような取り組みも視野に入れつつ、我々Funds Startupsは、『Funds Venture Debt Fund 』を通じて、引き続きディープテック・スタートアップへの資金供給に真っ向から向き合っていきます!
 ベンチャーデットを本格的に活用したいディープテック・スタートアップの皆様、当ファンドを通じてディープテック・スタートアップへの支援ニーズがある金融機関の皆様、またはそのお繋がりがございましたら、是非遠慮なくお問い合わせいただけますと幸いです!

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