【対談】三菱UFJ銀行がFunds Startupsと描く、日本のスタートアップ再加速戦略

2026/08/18

Interview

日本のスタートアップ金融には、長らく「空白地帯」があった。ベンチャーキャピタルによるエクイティと、銀行によるシニアデット。

とりわけ政府も力を入れているディープテック領域では、世界的に先行する技術や補助金の採択実績を持ちながらも、補助金が下りるまでの繋ぎ資金が確保できないといった「資金の空白」により、他国に追い抜かれ軌道に乗れなかった企業すら存在する。企業がまさに成長資金を必要とする局面に、資金の出し手がいない状態が続いているのだ。

Funds Startups(以下FS)は、この空白を埋めるべく「オールステージ・ディープテック・デットファンド」と位置づける2号ファンドを立ち上げ、最終的に100億円規模を目指している。そのアンカー投資家として参画したのが、国内最大手銀行・三菱UFJ銀行だった。同行が国内のベンチャーデットファンドにLPとして出資するのは、これが初めてのことだ。

なぜ、メガバンクが今、このタイミングで動いたのか。三菱UFJ銀行はFSに何を託し、何を為そうとしているのか。

同行スタートアップ戦略部長の西地賢祐氏に、FS代表取締役の前川寛洋が、アンカーLP参画の舞台裏を探った。

目次

  1. 産業金融からスタートアップへ

  2. エクイティとデットの"真ん中"

  3. ベンチャーデットへの参入は「社会的責任」だ

  4. 三菱UFJに足りないナレッジを、FSから得たい

  5. この10年で「歴史に名を刻む」

産業金融からスタートアップへ

前川寛洋(以下、前川) まず、西地さんの自己紹介と、三菱UFJ銀行 スタートアップ戦略部の取り組みについて教えてください。

西地賢祐(以下、西地) 私のキャリアは、この業界では結構異色だと思っています。もともとプロジェクトファイナンスに取り組みたくて銀行に入り、海外の発電所をつくるような事業ファイナンスを10年近く手がけてきました。

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その後、インフラ投資会社の設立、サステナブルビジネスの立ち上げ、大企業との事業共創投資など、一貫して「新しいファイナンスをつくる」仕事をしてきました。

直近では、事業共創投資部にて大企業とスタートアップをつなぐオープンイノベーションを推進し、NEDOから委託を受けてのベンチャークライアントモデル実証事業なども担当してきました。

2026年4月からスタートアップ戦略部に着任し、今はVC、証券会社、信託銀行を含めたMUFGグループ全体におけるスタートアップ戦略の統括をしています。

前川 これまで、様々な事業における新しいファイナンスをつくってきたキャリアから見て、今のスタートアップファイナンスの可能性をどう捉えていますか。

西地 スタートアップの事業へのファイナンスは、正直すごく難しいと思っています。

端的にいうと、全てがオーダーメイドになるので、それぞれの事業の形に合わせて「こういう資金提供の形が必要だろう」というイメージは湧くのですが、それを実現するための具体的な融資商品や審査の枠組みを、銀行としてまだ持ち合わせていないことが多い。

過去の実績ではなく、ベンチャーキャピタルのように将来の成長ポテンシャルを評価して資金を出すという点については、我々銀行もまだ学んでいる最中ですね。

スタートアップの世界は、決まった枠組みがあるのではなく、"生き物感"が強い。今まで積み重ねてきた知識や経験を、総動員しなければ価値提供ができない領域だと感じています。

前川 非常に共感します。私たちFSの行動指針も「テーラーメイド」です。

特にベンチャーデットは、エクイティとデットの間の空白を埋める手段です。だからこそ、企業ごとの状況に徹底して向き合えば、パズルのピースがはまる最適な形を作れます。一方で、安易に型にはめようとすれば、単なるパッケージになってしまう。この一筋縄ではいかない奥深さにこそ、ベンチャーデットの真髄があると考えています。

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エクイティとデットの"真ん中"

前川 「総動員しなければならない」という言葉がありましたが、三菱UFJ銀行として、スタートアップ金融のエコシステムでまだ満たせていない課題はどこにありますか。

西地 まさに前川さんが先ほどお話しいただいた、エクイティとデットの間が圧倒的に不足していることです。

成長ステージの初期、シード・アーリーはエクイティで小口分散の支援ができていて、ここはVCが主戦場です。我々も、グループの三菱UFJキャピタルがディープテックも含めてしっかり支援できています。

一方で、レイター期になり事業のキャッシュフローが見えてくると、今度は我々銀行の本業であるシニアデットの世界になります。ここにはすでに多くの金融機関がひしめき合っており、資金供給の担い手は十分に存在しています。

問題は、その間を繋ぐところ。ここが圧倒的に足りていない、というのは皆さん共通の認識だと思います。

特にMUFGの特色は、長年日本のモノづくりやインフラを支えてきた産業金融であり、日本を代表する企業とのネットワークの強さです。

デットによる資金調達が強く求められるのは、ものづくりやインフラといった領域です。そして今後のディープテック領域では、まさにこうした分野が増えていくと見ています。

AIやSaaSといったソフトウェアだけでなく、しっかりと資金を投じて実体のある「モノ」をつくっていく。これこそが日本の強みであり、勝ち筋になるはずです。

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ただ、ディープテックは実用化までの期間が長く、先行きが見通しづらいという難しさがあります。そのため、政府の資金と民間の資金をどうブレンドし、リスクを分担していくかについては、まだ改善の余地が残されていますし、資金の出し手となるプレイヤーも不足しているのが現状です。

前川 具体的にどんな点について、もどかしさを感じてこられましたか。

西地 企業が事業を急拡大させるフェーズに入ったとき、成長資金の出し手に限界が来てしまう点ですね。ベンチャーキャピタルのファンド規模では1社に出せる金額に上限があり、かといって我々銀行が直接株式(エクイティ)を持つことにも制度上の歯止めがかかります。

結果として、企業がスケールしていくための大規模な資金を十分に供給できず、お客様のニーズに応えきれていないという歯がゆい思いを抱えています。

特にディープテック、宇宙開発やGX(グリーントランスフォーメーション)のような、先が見通しにくい領域では、政府保証や補助金の繋ぎといった限られた部分でしか支援できていない。

もう少し踏み込まないといけない、というのは顧客の声からも、マーケットを見ていても感じています。

ベンチャーデットへの参入は「社会的責任」だ

前川 他にも、障壁になったものはありますか?

西地 たくさんありますが、まず大きな壁になるのが、事業が成長していく蓋然性の高い企業を見つけ出す「ソーシング」です。

銀行は「フォワードルッキング」に事業を評価しなければと言いながらも、実際の融資審査は過去の財務指標という「バックワードルッキング」なトラックレコードに依存するシステムになっています。

そのため、過去の実績がないスタートアップに対しては、我々が適切に評価してアプローチできるソーシングの範囲が非常に限定的になってしまい、従来のやり方が全く通用しないのです。

もう一つが、リスクとリターンの設計です。普通のデットの金利設計だと、うまくいかないケースが多く出てくる。金利を上げればキャッシュフローを痛めてしまいます。

逆に、うまくいった時のアップサイドをしっかり取れる、エクイティに近い発想(SOの付け方などのハイブリッドなノウハウ)が、まだ社内に内在化できていません。

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前川 とすると、今回このタイミングでベンチャーデットに参入された背景には、自社に不足している「ソーシング」や「ハイブリッドなファイナンスのノウハウ」を、実践を通じて内在化していくという思いもあったのでしょうか?

西地 資金調達環境全体を見ると、足元の調達額は減っていて、VCも厳しい状況にある。IPOが遠のき、既存案件のエグジットプランも変わってきている。エクイティを補完する形でベンチャーデットが少しずつ増えてきている中で、我々もエクイティとデットの間を繋ぐ動きを本格化させるタイミングだと考えました。

これは日本のメガバンクとしての、社会的な責任でもあります。

間接金融が中心の日本の金融システムの中で、「誰かがやってくれるのを待つ」という発想もあり得ますが、3メガバンクと言われる立場でありながら、他力本願でうまくいった案件だけをチェリーピッキング(いいとこ取り)する銀行でいいのか、という議論を社内でもしてきました。

前川 全国銀行協会の「新株予約権付融資に関する検討会」でも、有識者として議論に加わらせていただきましたが、まさにそこでの議論が、御行の中の整理を進める後押しになったと伺っています。

西地 その通りです。他行がすでに取り組まれているのは認識していましたが、腰が重かった部分もあった。前川さんが検討会でお話しいただいたアドバイスにより、我々の中の議論の整理が進んだのは、大きな後押しになりました。

前川 アンカーLPとして参画されたのは、単なるLP出資と何が違うのでしょうか。

西地 正直、他のLP出資の案件でも、アンカーで入ることは多くありません。ここは対外的なマーケットに対しても、MUFGとしてベンチャーデットに本気でコミットしていくという表れです。

とりあえずこのマーケットに足を踏み入れてみるということではなく、しっかり市場を支えて作っていく一助になりたい、というコミットメントがアンカーLPという形に繋がっています。

三菱UFJに足りないナレッジを、FSから得たい

前川 アンカーLPとしては、FSに具体的にどのようなことを期待していますか。

西地 まず、1号ファンドの実績に鑑みると、案件の「ソーシング力」に期待しています。ベンチャーデットで支援すべき事業や資金使途の案件かどうか、どんなクライテリアで投資先を絞り込んでいくか。ここは我々としても学ばせていただきたい。

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もう一つは、融資実行後の「モニタリング」です。ベンチャーデットの管理のあり方や深さは、過去の決算書を見るような普通のデットとは全く違います。

日々状況が変わるスタートアップに対して、分散した貸付先のポートフォリオをどう効率的にコントロールし、リスクをマネージしながらリターンを取りにいくのか。我々にはない、この特有のノウハウに強く期待しています。

アンカーLP投資家としてFSと密にコミュニケーションを取り、ファンド運営を間近で拝見させていただきながら、ベンチャーデットの取り組みを銀行で内製化できるようにと考えています。

前川 まさに我々も、そうしたモニタリングを通じてスタートアップの現場に深く入り込んでいるからこそ、見えてくる切実な課題があります。

例えば、ディープテックの現場ではこんな話がありました。あるスタートアップは、世界的に見ても先行する技術を持ちそれなりの規模の補助金も採択されていました。

ただ、補助金というのは基本的に「後払い」です。採択されても、まずは自分たちで開発費を立て替えなければなりません。一部を前渡ししてくれる「概算払い」という制度もありますが、実務上の手続きに時間がかかり、必要なタイミングで資金が手元に入らないことが多い。

結果として、経営陣が繋ぎ資金の奔走に追われてしまい、本来注力すべき技術開発のスピードが落ち、その間に資金力のある他国の製品に追い抜かれてしまったんです。

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ただ、この「補助金の繋ぎ資金(ブリッジファイナンス)」は、我々資金を提供する側からしても実は難易度が高い。

国から後払いが約束されているとはいえ、要件を満たせず結局支払われないリスクもありますし、スタートアップ側に補助金を適切に処理・申請する管理体制が整っていないケースもあります。

最悪の場合、不正受給などのコンプライアンス問題に発展する恐れすらある。単に「補助金が出るから安心」ではなく、企業の管理体制の裏側まで個別に深く入り込んで見極めなければ、出し手としても危ない橋を渡ることになってしまうからです。

でも、適切なモニタリングができ、適切な資金供給ができる仕組みがあれば、この会社が世界を席巻していたかもしれない。それを聞いた時、これは国を挙げた競争力の話だと痛感しました。

西地 まさに、オープンイノベーション支援の現場でもよく言われていたことです。「補助金は下りたけど、繋ぎ資金がない」というニーズは非常に大きい。補助金を立て替える仕組みがあれば相当救えます、とよく言われました。ここは本当にニーズとして大きいですね。

この10年で「歴史に名を刻む」

前川 今後、三菱UFJ銀行としてこのベンチャーデット市場にどう向き合っていきますか。

西地 ベンチャーデットと一言で言っても、プレイヤーの棲み分けがあります。例えば、政策的な意義から初期・中期のフェーズを広く下支えする役割の金融機関もありますが、我々がフォーカスするべきは、より「産業」に直結した、規模の大きいシニアデットに近い領域だと考えています。

つまり、どちらかというとレイターに近いところ、成長後半にあたる領域をしっかり支援していきたい。すべてに手を広げるのではなく、MUFGとして支援するロジックが描けるもの、我々が作りたい産業戦略に繋がっているものに絞り込んでいく。ばらまきではなく、ここぞというところにやっていくのが基本線です。

FSのファンドで支援した先が育ち、次のステージに進んだときに、我々がシームレスにファイナンスを引き継ぐ。オープンイノベーション支援を含め、大企業と接続する機能も合わせて提供できれば、相乗効果が生まれると思っています。

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前川 政府はディープテックを含む重点投資分野に、2040年までの長期ロードマップを掲げています。

日本国内で「スタートアップ」という言葉が広く定着してから、およそ10年が経ちました。当時1号ファンドを立ち上げた新進気鋭のVCたちも着実に実績を積み重ね、今や市場を牽引する存在へと成長しています。

振り返ればこの10年間は、北米をはじめとする金融先進国のモデルを日本に輸入し、スタートアップ・エコシステムの基礎的な「型」や「インフラ」を構築してきた準備期間だったと言えます。

これからの10年は、日本なりの勝てる産業と、それを支える金融のあり方、官民連携のあり方をつくっていく本番だと思っています。三菱UFJ銀行とFSがやったこのファンドが起点だった、と歴史に名を刻むような取り組みにしていきたいです。

西地 よろしくお願いします。

<STAFF>
インタビュアー:前川寛洋(Funds Startups)
デザイン:國井優史
執筆:海達亮弥(Funds)

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