こんにちは、Funds Startupsです。Funds Startupsは、「社会的インパクトを創出するスタートアップが、最も理想的な成長を遂げられる仕組みを開発する」をミッションに据え、現在Funds Venture Debt FundのGPとして、ファンド運営ならびに金融機関へのベンチャーデットに関する支援を中心に行っています。また、デット市場のさらなる普及と透明性の向上に向けて、 Venture Debt に関するさまざまな情報を継続的に発信しています。【Venture Debt Library|調達準備編】は、将来的にデット調達を検討しているスタートアップのための実践シリーズです。前回の【Venture Debt Library#5】調達準備編では、「スタートアップが活用できる法人融資の選択肢」について寄稿していますので、是非ご参照ください。本稿では、ベンチャーデットの代表的なユースケースと、その設計の考え方を整理します。「なぜ使うか」「どのような時に使うか」「どう設計するか」という視点から、活用イメージを具体化することを目的としています。ベンチャーデットの活用理由とは?(=なぜ使うのか?)ベンチャーデット(VD)は、スタートアップの成長フェーズと資本政策を前提に設計されたデットファイナンスです。資金不足を補うためだけでなく、資本構成を戦略的に設計するための手段として活用されています。主な目的は以下の通りです。エクイティの希薄化を抑える調達タイミングを最適化する成長投資を継続する資本効率を高める銀行融資が難しいフェーズで活用するエクイティかデットかの二択ではなく、両者を組み合わせて最適な資本構成を作るという発想が前提にあります。ベンチャーデットの代表的な ユースケース(=どのような時に使うか)具体的には、主に以下のようなケースで利用されています。① ランウェイ伸長(次回ラウンド・KPI到達までのブリッジ)次回エクイティ調達に向けて、重要なKPI・売上マイルストーンの達成までの期間を延ばすための活用です。一定の数値や事業進捗を積み上げてからラウンドに臨むことで、より良い条件での調達を目指す設計です。ベンチャーデットの中でも最も代表的なユースケースの一つで、特にデットファンドが資金供給者となります。事例: シェルパ・アンド・カンパニー株式会社(IT SaaS)「ミルフィーユ型調達」を提唱する同社は、エンタープライズSaaS特有の年度末に売上が集中する特性を活かし、Series B前にデットで十分なランウェイを確保。MRRを数倍に伸ばしたタイミングでエクイティ調達に臨むことで、有利な条件を引き出した事例。16億 シリーズB調達の裏側:シェルパがこれまで実施してきたミルフィーユ型資金調達と戦略的デット活用のすすめ|杉本 淳(シェルパCEO | ESG)② 黒字化までのブリッジ黒字化またはキャッシュフロー自走状態までの到達を目指して活用するケースです。エクイティ調達を前提とせず、事業キャッシュフローで回る状態までの時間を確保する目的で使われます。収益モデルや成長見通しがある程度確立された企業で見られるパターンです。近年では、VCからのエクイティ調達を前提としないスタートアップにおいても、急拡大ではなく、黒字水準を維持しながら着実な成長を目指すケースが出てきています。こうした企業は、まだ銀行融資の対象レンジに十分入っていない成長フェーズにあることも多く、その間の資金手当てとしてベンチャーデットが活用されることがあります。③ エクイティ調達の補完ラウンドファイナンスの際に、エクイティのみで必要額を調達するのではなく、一部をデットで組み合わせる設計です。調達総額を確保しながら、株式の希薄化を抑制します。こちらもベンチャーデットの中でも最も代表的なユースケースの一つで、特に銀行系のベンチャーデットプレイヤーが資金供給をしています。④ 補助金入金・大型受注前後の資金ギャップを埋めたいとき補助金や助成金の入金待ち、または大型契約の回収前など、入出金のタイミング差を埋めるための活用です。資金回収イベントが見えている場合のブリッジとして使われます。ディープテック・スタートアップの助成金収入及び政府委託事業の受注金額までの繋ぎ、開発の進捗に応じて顧客から都度マイルストーン収入を得られるような事例(宇宙関連事業や創薬事業など)、及び顧客に自治体が多い場合などはこのケースに該当する場合が多くなります。⑤ 成長投資の前倒し(採用・開発・営業)成長投資を前倒しで実行するための資金です。採用拡張、営業体制の増強、プロダクト開発の加速など、成長スピードを引き上げる目的で活用されます。ランウェイを“守る”ためではなく、成長を“加速させる”ためのデット活用です。特にSaaSなど、投資と売上拡大の相関が見えやすいモデルで多く見られます。⑥ M&A資金事業買収やロールアップなどのM&Aに活用される資金です。PMIによる収益改善や、買収先企業のキャッシュフロー、統合後のシナジー創出を前提に設計されます。単体事業の成長資金ではなく、買収後のキャッシュ創出力を見込みながら組み込むデット活用です。⑦ 設備投資・量産化投資量産における設備導入などの資金です。Deeptech、ロボティクス、ハードウェア領域で見られるユースケースです。返済原資(キャッシュフロー)から見て整理してみるここまで、ベンチャーデットのユースケースを「どのような時に使うか」という観点で整理してきました。もう一つ有効な見方として、何が返済原資になる設計なのかという視点です。デットはエクイティと異なり、必ず返済することを前提としています。だからこそ、「資金を何に使うか」と同時に、“何で返すのか”を先に設計することが不可欠になります。例)営業キャッシュフロー:黒字化までのブリッジ、成長投資の前倒し、補助金入金ブリッジ、研究開発・プロジェクト型のマイルストーン収入財務キャッシュフロー:次回ラウンドまでのランウェイ伸長、エクイティ補完など投資キャッシュフロー:M&Aや設備投資など ※厳密に言えば、投資キャッシュフロー自体が返済原資になるのではなく、投資キャッシュフローを資金使途とした融資の結果として、生み出される営業キャッシュフローや財務キャッシュフローを返済原資とする場合。ユースケースをこの視点で見直してみると、「何の資金手当てなのか」「どの成長シナリオに紐づくのか」が整理しやすくなります。そしてレンダーは間違いなくここを最初に確認します。ベンチャーデットを検討する際は、用途に加えて、何が返済原資になる借入なのか?という観点でも一度整理してみると、レンダーとのコミュニケーションもぐっと楽になります。まとめでは、結局いつベンチャーデットを活用すべきなのでしょうか。一つの目安は、成長のための資金ニーズはある一方で、エクイティのタイミングは今ではないと考える局面です。具体的には、次回ラウンドまでのブリッジ、黒字化までの到達支援、成長投資の前倒し、資金ギャップの補完などが代表例です。そのうえで、用途だけでなく「どのキャッシュフローが返済原資になる設計か」という視点で整理してみると、ベンチャーデットが適した選択肢かどうかが見えやすくなります。どの資金調達手段が最適かは企業ごとに異なりますが、エクイティとデットを対立的に捉えるのではなく、成長戦略に応じて組み合わせて設計するという視点が、2026年以降のスタートアップの資本政策ではますます重要になっていきます。次回からは、具体的にベンチャーデットを借りる際の実務フローをご紹介していきます。皆様のデット調達準備の一助になれば幸いです!