スタートアップの成長には、資金調達が不可欠だ。エクイティとデットをバランスよく組み合わせ、資金ショートを避けながら事業を継続させる。そのために短期・中期・長期の視点を持ち、事業を下支えする存在が必要不可欠だ。―それがファイナンスをリードする「CFO」であり、時には「CEO」がその役割を担う。 しかし、彼らが「正解のない問い」を、より正解に近づけるために奮闘する姿は、これまであまり語られてこなかった。そこで、大企業のキャリアを捨て、アクセル全開で挑み続ける3名の起業家・CFOを迎え、Funds Startupsの前川寛洋がモデレーターを務め、資金調達のリアルを赤裸々に語った。※この記事はGEC(グロービス・アントレプレナーズ・クラブ) とFunds Startups 共同開催イベントとして実施された「スタートアップ資金調達のリアル」の一部をコンテンツ化したものとなります。大企業→スタートアップで、後悔したことはない──まずは、それぞれスタートアップに飛び込んだ理由を、自己紹介も含めてお願いします。すむたす 中山(以下、中山) 元々、実家が小さな会社を経営していて、祖父が社長、父が経理責任者を務めていた影響で、社長をサポートする“ナンバー2”の役割に憧れがあったんですね。私自身は、投資銀行でキャリアを積んだ後にスタートアップに転じ、経営により深く関わることを意識してきました。 大企業では「どうやるか」が決まっている中で効率性を追求しますが、スタートアップでは「何をすべきか」という問いを自ら立てるところから始めなければなりません。 この問いを立て、世の中にない新しい価値を生み出す楽しさは、何ものにも代えがたいものです。そうした中で、個人の人生における重要な意思決定を支援する不動産の売買事業に惹かれ、すむたすに入社しました。Fast Beauty 岡本(以下、岡本) 私は、三菱商事でキャリアをスタートしました。そこでは、グループ内企業向けのファイナンスや、資本市場からの資金調達を実施しており、時に数百億円規模の資金を動かす経験もしていました。 しかし、それを繰り返すうちに、どこか「数字遊び」のように感じ、手触り感がなくなっていきました。「もっとリアルで、事業を肌で感じられる世界に行きたい」といった思いが募ってきました。 また、ビジネス全体を考えたときに、大企業のように「レベル90〜99」の僅差を競い合うよりも、「レベル0から20」のフェーズにあるスタートアップで活躍する方が、世の中へのインパクトや価値創造の可能性が大きいと考えていました。 そういった経緯もあり、2021年にFast Beautyに参画しました。スタートアップの世界はまさにカオスですが、夜も眠れない経験を得られるくらいエキサイティングな場所です。商社を辞めて後悔したことは、今のところほぼありません。シェルパ・アンド・カンパニー 杉本(以下、杉本) 私は元々投資銀行にいたのですが、たまたま1ヶ月の休暇中にスタートアップの資金調達を手伝った経験が、私の価値観を大きく変えました。 そこには、投資銀行の世界とは全く異なる「ゼロから何かを生み出す熱狂」があり、当時30歳前には「起業しよう」と決めていたため、休暇から戻った日に退職を申し出ました。 最初の1年半は、ビジネスの進め方の違いに苦労しましたが、その経験が今の私を形作っています。起業のタイミングは自分を見つめ直せる時間がある時にあると思うのですが、まさに私も休暇のタイミングで、自分の長い人生を賭けられるテーマか、社会に大きなインパクトを与えられるかという軸で将来を見据えた上で、現在の会社設立を選びました。数字の裏に隠れたドラマ、そして最高の瞬間──スタートアップの資金調達は「数字」にフォーカスされがちですが、実際はその裏側で様々なドラマがあります。資金調達において、特にエクイティとデットの使い分けなど、印象に残っているエピソードを教えてください。中山 すむたすのような不動産事業は、マンションの仕入時に資金が必要となりますが、仕入資金は基本的に借入で賄うため、BS(バランスシート)に借入が積み上がり、自己資本比率が低下します。 自己資本率が低いと、エクイティの投資家からは財務の健全性についてより詳細な説明を求められることがありますが、一方で自己資本比率を維持するためにエクイティ調達を繰り返せば、今度は株式の希薄化が進んでしまう。このバランスが難しいんですね。 私たちの判断としては、事業を成長させるためにFunds Startupsなどの「ベンチャーデット」を最大限活用し、一時的に自己資本比率が低下しても、将来の成長性と事業の継続性のバランスを鑑みて、その度に金融機関や投資家に粘り強く説明することで理解を得てきました。 また、資金調達のポイントとしては、伝統的な金融機関とVCでは異なるアプローチを取っています。前者の金融機関には「確実に達成できる固めの計画」を、VCなどの投資家には「夢やアップサイドを見せる計画」を提示しています。 銀行は予算達成を重視しますが、投資家は期待値を超える成長を評価します。複数の計画を管理し、コミュニケーションパスを調整するのはCFOの腕の見せ所だと考えています。杉本 当社の資金調達は「ミルフィーユ型」と呼んでいます(笑)。まず、創業の融資から始まり、シード、プレA、そしてベンチャーデット、銀行借入を重ね、直前にはシリーズBの契約を締結しました。 特にベンチャーデットは、売上が大きく伸びる時期までのキャッシュ確保が必要な局面で非常に有効な手段となりました。 我々のようにエンタープライズ向けのSaaS事業は、売上が年度末など特定の時期に集中します。つまり、その時期を越えるための十分なランウェイ(資金が尽きるまでの期間)を確保できれば、トラクションを伸ばしきった状態でエクイティ・ファイナンスに臨みやすく、より良い条件を獲得しやすい。 そのため、シリーズBのエクイティファイナンスの半年ほど前からベンチャーデットを検討し、つなぎ資金として活用することでランウェイを伸ばし、トラクションを最大化することに注力できました。岡本 我々が、危機に陥ったのは2020年の頃でした。当時、100店舗以上を抱え、月次黒字を達成したばかりの当社を、コロナが直撃しました。 当時、「丸亀製麺」など飲食店舗の開発と運営を行うトリドールと資本業務提携を行っており、デットやエクイティで成長資金を提供して頂いていたのですが、コロナ禍の飲食業界の苦境で追加支援をお願いするのが難しかった。「アクセルを緩めて生き残るか、再成長の為に更に踏み込むか」。 この瀬戸際に立たされて、結果的に私たちは後者を選びました。具体的には、これまでから大きく方向転換し、VC含めたトリドール“以外”の投資家から、資金調達を行える形へと資本を再編し、出店を含めた事業運営やファイナンスを、より自律的に判断できる状態にしたかった。 今、思い返すとまさに「死の淵」にいた感覚だったのですが、結果的にこの判断が奏功して、その後の事業及びファイナンス面でイニシアティブを持てるようになった。 スタートアップのファイナンスは、大企業のそれとは全く異なり常にチキンレース。瀬戸際を走り続ける覚悟が求められるんだな、と思いましたね。──最後に、CFO・起業家としての最も苦労したこと、そして「最高に嬉しかった」瞬間とは?岡本 最もアドレナリンが出たのは、先ほど話したアクロバティックな資本再編を伴うプレシリーズAのファイナンスですね。例えるのであれば、20個ほどのボタンを正確な順番で押し続けなければクリアできないような難易度だったので、最後のピースがはまった瞬間は本当に震えましたね。中山 私にとって一番心動かされるのは、やはり人の成長です。若手メンバーが粘り強くお客様と向き合ったことで成約に至ったり、お客様に当社のビジョンに深く共感していただき「大手よりもすむたすに任せたい」と言っていただけるエピソードを聞くと、本当に嬉しく、酒が進みますね(笑)。杉本 資金調達の金額の大小で、メンタリティが変わることはあまりありません。しかし先日、某銀行の役員が、私と会ってたった30分で「1億円貸すよ」と言っていただいた時は、心が動かされました。 まだ赤字を掘っている段階のスタートアップに、そこまでリスクを取って信頼してくれたため、その期待に応えなければならないと強く思いましたね。──ありがとうございました。最後に「スタートアップの世界に飛び込んでみたい!」と、思われる方々に一言いただけますでしょうか。中山 正直なところ、スタートアップの世界は、誰もが向いているわけではありません。 しかし、自ら問いを立て、世の中にない価値を創造することに喜びを感じ、失敗を恐れず大きな成功の可能性に魅力を感じる方は、ぜひ飛び込んできてほしいですね。 今、すむたすでは、私と一緒にファイナンスの最前線を走る仲間を絶賛募集しています。大企業からスタートアップへの人の流れを、もっと強くしていくべきだと強く思いますし、私たちと共に、新しい価値創造に挑戦してほしいですね。岡本 私が思うに、スタートアップで戦っていくためには一定の「カオス耐性」が不可欠だなと感じます。むしろカオスを楽しみ、新しい価値やマーケット、そして仲間を創れる人は、非常に楽しい経験ができる。私自身、三菱商事を辞めて後悔したことはほぼありませんね。Fast Beautyは、一見超レッドオーシャンに見える美容業界ではありますが、だからこそ、美容師ではない多様なメンバーが力を合わせることで、既存の常識を覆し、大きな変革を起こせる余地があるとも言えます。ぜひ「暴れてやろう」「チャレンジしてみたい」という挑戦者がいたら、ぜひ一度お話しをしてみたいと思います。杉本 私は、スタートアップの世界に飛び込み、価値観が大きく変わったと実感しています。そこで感じたのは、人生を豊かにする経験は、挑戦し続けることでしか得られない、ということ。 シェルパ・アンド・カンパニーは、今回の資金調達を経て、さらにグローバル展開や事業開発を加速させ、これまでの自分には見えなかった世界へ飛び込もうとしています。大手との連携や海外展開など、多様なオポチュニティが溢れているので、新しい世界を共に切り拓きたいという熱意ある方を歓迎したいですね。──本日は、皆様のリアルなストーリーをお聞かせいただき、ありがとうございました。我々、Funds Startupsのベンチャーデッドファンドは、年間で数百社のご相談をいただく一方、実際に実行に至るのはごく限られた数にとどまります。その中で、本日ご登壇いただいた3社にご一緒できていることを、改めて大変光栄に感じています。これからも、未来を共に創る挑戦者の皆さまと共に歩み、心から応援してまいります。Funds StartupsについてFunds Startups株式会社(本社:東京都渋谷区、代表取締役:前川寛洋)は「社会的インパクトを創出するスタートアップが、最も理想的な成長を遂げられる仕組みを開発する」をミッションに据え、ファンズ株式会社の100%子会社として2023年12月に設立されました。Funds Startupsでは、Funds Venture Debt FundのGPとして、ファンド運営ならびに金融機関へのベンチャーデットに関する支援を中心に行います。今後については当事業を中核としつつも、スタートアップ専門の投資銀行部門のような役割として、スタートアップの資金調達手段の多様化や環境整備等も手掛けていく予定です。