こんにちは、Funds Startups代表の前川です。Funds Startupsは、「社会的インパクトを創出するスタートアップが、最も理想的な成長を遂げられる仕組みを開発する」をミッションに据え、現在Funds Venture Debt FundのGPとして、ファンド運営ならびに金融機関へのベンチャーデットに関する支援を中心に行っています。また、デット市場のさらなる普及と透明性の向上に向けて、note を通じて Venture Debt に関するさまざまな情報を継続的に発信していく予定です。今回はその記念すべき第一弾として、ベンチャーデット(VD)の存在意義を改めて振り替り、その誕生背景から近年の市場変化と今後の発展可能性について、2つの記事に分けてお届けしたいと思います。近年、特にミドル・レイター領域においては、ベンチャーデットの活用が相応に浸透してきました。その背景として、2022年末以降、マクロ経済環境の変化、地政学リスクの顕在化等によって、グロース市場全体が低迷を続けており、直近では日本でも利上げが進む中、一層ハイグロース銘柄であるスタートアップの評価は厳しいものとなり、その煽りを受けて未上場時点での評価にも影響を及ぼしています。特にレイターを中心に、公開市場に近ければ近いほど、その影響は直接的であり、結果として「エクイティの資金調達だけでは必要資金が賄えない」「出口戦略を考慮した際に、これ以上高い資本コストの資金を受け入れられない」といった課題感から、成長資金調達においてエクイティを代替するようなニーズからベンチャーデットは急激な広がりを見せてきました。本投稿においては、上記のような市場背景に照らして、ベンチャーデットがどのように国内で誕生、発展してきたのか、そして今後どのような発展可能性が見込まれるのか、を解説してまいります。そもそも「ベンチャーデット」とは?今でこそ「ベンチャーデット」という名称を知っている方は増えてきたかと思いますが、そもそも正確な定義をご存知な方は、どの程度いらっしゃるでしょうか。まずはベンチャーデットの定義、解釈からご説明します。よく巷では「スタートアップ向け融資」「ベンチャーデット」「ベンチャー向けローン」等、近しい用語が流通していることも散見されますが、当社の定義認識としては、以下の通りに整理しています。スタートアップ向け融資(ベンチャー向けローン等)定義:ベンチャー企業に対する融資全般を指す総称であり、一般的には通常融資の枠組みにおいて、スタートアップ/ベンチャーに対して提供される商品のことを指す(上記図の③)※Funds Startupsにおける定義ベンチャーデット定義:ベンチャー企業に対する融資のうち、エクイティ性*(必ずしもエクイティに限らない)の条件が付されている融資のことを指す。具体的には、新株予約権付融資・社債、転換社債型新株予約権付融資・社債(CB)およびそれと同等のリスクリターンが設定された金融商品のことを指す(上記の図の②)なお、上記のうち米国等のマーケットの歴史が長く、金融商品の厚みがある市場においては定義が更に狭義となっており、ベンチャー企業の定義として「VCから資金調達をしている」が付されていたり、よりアーリーに活用することを前提としている等、各国の市場成熟度に応じて定義の揺れは存在している(上記の図③)※Funds Startupsにおける定義なお「市場黎明期である」といえばそれまでなのですが、ベンチャーデットについては取り組むプレイヤーの多さ、一般名称の抽象度の高さ等から、各社の定義にも相応に揺れが存在しており、業界全体として画一化された定義で浸透していない現状にあり、この未成熟度自体も普及や最適化に向けたブレーキ要因の一つになっていると感じております。その背景からも、あえて当社としてスタンスを取れば、ベンチャーデットとは「ベンチャー企業に対する融資のうち、エクイティ性*の条件が付されている融資」と定義するべきかと考えています。*エクイティ性原則として条件にエクイティ(一般的にエクイティキッカーとしての新株予約権)が付与されるものであるが、本質的には「エクイティで期待するリスクリターン条件」が付与されているものであることから、その手段として必ずしもエクイティに限らない整理も存在している。例えば、エクイティの代わりに、エクイティの期待リターン相当の金利やPIK等が設定されているケースが考えられます。「ベンチャーデット」の誕生と発展の歴史先の定義で整理した通り、ベンチャーデットが「ベンチャー企業に対する融資のうち、エクイティ性の条件が付されている融資」とした場合、この金融商品自体は相応に前から運用されている事例も観測されている一方で、ここでは近年の"スタートアップ"という名称が台頭してきた以降に限定したい。そもそも「スタートアップ」という言葉は諸説はあるものの、概ねITバブルが崩壊して以降(2011年以降)、シリコンバレーを中心として、GAFAのような巨大なテックカンパニーが台頭してきた頃に流通され始め、国内でも多少遅れて、その言葉が流通し始めたと認識しています。したがって、簡便的に2010年台前半から遡ることになります。2010年台前半~ベンチャーデットの調達環境 当時は当然金融機関というプレイヤーは存在しつつも、そもそもスタートアップの主たるリスクマネーの提供者であるVCの数が極めて限定的であり、原則としてエクイティの上に成り立つベンチャーデットは、ほとんど観測されておらず、Funds Startupsのパートナーである小島が元々所属していた新生銀行等、一部の金融機関がその先駆けとして取り組み始めていました。※余談ではありますが、パートナー小島によると、当時はベンチャーデットのような商品を提案した場合にも「元本回収を前提とする設計はスタートアップにはなじまないのではないか」「株式投資であれば理解できるが、デットで同じリスクを取るのは難しい」といった感想が返ってくることも少なくなかったそうです。背景には、資金の性質や資本コストを横断的に捉える視点が、まだ十分に共有されていなかったという事情があったのだと思います。2015年~ベンチャーデット黎明期 そこから月日が流れて2015年以降になると、積極的な政策投資も相まってVCプレイヤーが増加し、市場にエクイティが加速度的に供給されるようになりました。2010年代後半では界隈では誰もが知っているであろうメルカリ、マネーフォワード等の代表的なスタートアップの上場も観測され、一気に市場に熱が入り始めたものと振り返っています。 そのような中、2019年には国内初の「ベンチャーデットファンド」として、あおぞら企業投資さんの「HYBRIDファンド」が設立され、以降も断続的にファンドを増額され、ベンチャーデットファンドの礎が築かれてきました(※以下記事が包括的にまとまっており、よければご参考ください)日本でも広がる「ベンチャーデット」のメリットは? 第一人者に聞いてみた そこから更に市場の成長は進み、2021、22年にはコロナを経た世界的な量的金融緩和の影響や、政府の「スタートアップ育成5年計画」の開始等にも相まって、年間の資金調達総額が1兆円間近にまで到達する加熱性が見られました。2021年~調整局面と資金調達環境の変化 一方で、2021年末以降は、米国金利の上昇や、地政学リスクの顕在化等の複合的な要因により、世界的にグロース市場のセンチメントが弱まり、特に弾力性の強い米国においては、2021-2022においては、昨年比で急激に資金供給および先行指標であるVCのファンドレイズが減少し、いわゆる「スタートアップバブル」が崩壊し、冬の時代へと突入していきました。2024年の国内スタートアップ資金調達総額は7793億円。スピーダ、国内スタートアップ資金調達状況を伝える『Japan Startup Finance 2024』の速報を公開 上記の流れを受けつつも、日本においてはエクイティ供給者の違い(事業会社資金がマジョリティ)や、典型的に米国の動きから一周遅れて影響を受けることからも2022年は、引き続き高水準にエクイティ供給が続きましたが、2023年以降は本格的にフラット~ダウントレンドに移行します。 また、このような推移を背景に、スタートアップの生存戦略としても「エクイティ調達に依存しない経営」の重要性が議論されるようになり、赤字先行の経営スタイルから利益重視の経営スタイルに、単一プロダクト型から複数プロダクト型に、そして外部資本もエクイティ一辺倒から様々なファイナンス手段の併用型へと、移行されている流れが散見されました。2022年~ベンチャーデットが「選択肢」になった現在 そのような背景の中で、2022年には現在は上場しているタイミー等、複数のスタートアップにおいて大型負債調達のリリース発表がエポックメイキングとなり、スタートアップのデット活用に一気に注目が集まるようになり、結果として2022年はスタートアップによるデット調達額およびニーズが爆発的に拡大しました。 また、そのニーズに呼応するような形で、我々Funds Startups含め、金融機関および新興デットファンドが次々に市場への参加を表明する中で、市場原理が働き始め、マーケットメイクがなされてきたものと振り返っています。 また、特に近年の金融機関においては、従来の担保依存や経営者保証依存の融資慣行ではなく「事業者と金融機関等の緊密な連携の下、事業の継続及び発展に必要な資金の調達等の円滑化を図る」ことを目的とした"事業性融資"を金融庁が主導する形で推進され、関連する法律制定、改定等も含めて、積極的に動きを見せています。この事業性融資の枠組みから見ると、ベンチャーデットとは、事業性融資の一丁目一番地とも言え、規制当局も含めて普及の追い風がたっていることも影響していると感じています。まとめ本稿では、ベンチャーデットが国内でどのように誕生し、市場環境の変化とともにどのような役割を担うようになってきたのかを整理してきました。エクイティ環境の変化や資本コストへの意識の高まりを背景に、ベンチャーデットは一時的な代替手段ではなく、経営の選択肢として定着しつつあります。そのうえで、2025年を振り返ると、東証主導の上場市場改革プログラムによるグロース市場の上場維持基準見直しは、スタートアップにとって大きな地殻変動だったと言えます。従来多く見られた“スモールIPO”は実質的に選びづらい選択肢となり、12月には政府による「スタートアップ向けM&A指針策定」が打ち出されるなど、出口戦略の多様化が進み始めています。このようなマクロ環境の変化を踏まえ、次回は2026年以降を見据え、Exitパターンの変化から見たベンチャーデットの発展可能性について掘り下げていきます。